ニックネーム:
こたろう
投稿日:2017/02/25
イラク戦争で英雄に祭り上げられた生き残りの兵士
イラク戦争をテーマにした作品です。といっても戦争の場面が出てくるわけではなくて、たまたま戦場を訪れていた報道陣が写したニュース映画で伝えられた戦闘で生き残ったブラボー分隊の八人が戦意高揚のため(今でもそのような行為があるんですね、戦争にかかわり続けるアメリカでは)アメリカ中を旅して歩き、テキサスのアメフトのスタジアムに招待されて、ハーフタイムのショーに担ぎ出されるというお話です。
主人公はビリー・リン。姉の婚約者の新車をわけあってぶち壊し捕まる前にと軍に入隊した経緯を持っています。
ショータイムにはビヨンセも出てきて盛り上げるのですが、その裏でブラボー分隊を描く映画の製作話が持ち上がり、はじめ十万ドルという金額が提示され話は進みかけるのですが、途中でダラスカーボーイズというアメフトのチームを運営するお金持ちが割り込んできて金額を下げた提示をしブラボー分隊の面々と対立することになります。
延々とつづくつまらない試合の演出のひとつとして招かれ貴賓席にいたのに分け合って追い出され、おまけに喧嘩までやりだして、でもビリーはその何時間か前に知り合ったチアガールの女の子と運命的な恋に堕ちてしまい夢中でざわつくスタジアムの雰囲気も気にならない状態です。
その前日には巨額な医療費をかかえ(父が倒れ車いす生活なのです)ている家族たちと会って別れをすませ二日後には、また弾の飛び交うイラクに舞い戻ることが決まっているのでした。
十数時間時間かけて飛行機に乗ればイラクとアメリカを行き来できる現実がそこにあって、立った数センチのちがいで死と隣り合わせになっている戦場と本国では戦争の悲惨さも知らずに浮かれて騒ぐアメフト会場の馬鹿さ加減が合わせ鏡のように狂った世界を浮き彫りにします。
目の前の華やかさと冷酷で無意味な死のまっている戦場を繰り返し思い浮かべ違和感を感じ続けるビリー。
戦争が遠い国でのものではなくて日常と隣り合わせで、ごく普通に行われているありふれた日常と化した戦争の意味を鋭く問う問題作です。
アン・リー監督の手で映画化されアメリカではすでに上映され日本でも二月に上映予定だったそうですが今調べると上映延期になっているのかな、よくわかりませんが。
華やかさと残酷さと、無知な観客と死を抱えた兵士たちの対比が残酷なくらい印象的な戦闘場面のない戦争映画でした。