ニックネーム:
まーち
投稿日:2017/04/06
“人間は、誰かのために生きている”
新作かと思って借りたのだが、「母さんのコロッケ」という作品を改題し、書き下ろしの短編を加えた新装版だった。
大手の自動車メーカーで働いていた秀平は、「ノルマ」に追われる生活に疲れ果てるとともに、やる気の感じられない新入社員たちを見てきて、子どもたちに、本当の生きる力を育てる塾を創りたいと考えるようになった。
妻・涼子も賛成し、会社を辞め、塾を立ち上げる目途が立った矢先、涼子が妊娠していることがわかる。
涼子が出産する際、娘の寛奈の世話をどうするかという問題が発生したのだが、涼子は、迷わず、秀平の実家に世話になることを選んだのだ。(涼子の母親は、他界している)
塾を立ち上げ、一人での生活が始まった秀平だが、ある日の通勤途中で、せきが止まらなくなり、駅の売店で、「ルーツキャンディ」という飴を購入した。
ところが、その飴を舐めるたびに、秀平は、不思議な夢を見るようになったのである。
それは、今まで聞いたこともなかった、秀平の祖父母や両親の、過去の生き様だった。
戦争という、過酷な時代を生き抜いた祖父母、そんな祖父母が、命をかけて守り抜いた、彼らの子どもである父母。
そして、そんな彼らのさまざまな想いとともに、自分が生まれてきたことを知る。
塾の経営がうまくいかず、自信を失いかけていた秀平だったが、夢を通して知ることができたことによって、今の自分がここにあることの素晴らしさと、自分がやるべきことに気付くのだった。
過去の時代を生きた人々が、過酷な運命を正面から受け入れ、自分にできることを全力でやって命をつないでくれたからこそ、今、自分がここにいる。
秀平は、自分の命の重み、そしてつながりを感じるのだった。
「将来を素晴らしいものにするためには、不確定の未来に対して、勇気を持って一歩踏み出し、次の世代に本当に残してあげたいものの種、つまり、『希望の種』」をまき続けていくことが大切です」
「人間は、誰かのために生きている」
書き下ろしの短編が加わったことで、命のバトンがリレーされていることが、より強く印象付けられたこの作品。
大人が読んでも子どもが読んでも、それぞれ、感じるものがある作品だと思った。