ニックネーム:
こたろう
投稿日:2017/06/28
点数が付けられた受賞作たち
まことに奇妙な文学賞である芥川賞の過去すべての受賞作に「偏差値」つまり点数を付けてしまおうという、こちらこまことに奇妙な試みなのです。
それを読んでみようかという私も似た者なのかもしれませんが。
書かれた小谷野氏は多彩な活動をされている方で文筆業となっていますが、評論から小説、そして今回のような悪口までいろいろ書かれる方のようです。
労作ではあります。
ただし公平なジャッジではありません。そもそも評価を付けるという点で公平を期することは無理でしょう。
例えて見れば、タイムで競う陸上競技や水泳のようなスポーツとフィギアスケートや体操などでは後者のほうが評価者による誤差が否応なく出てしまうように、そもそも物語、小説に点数を付ける時点で個人的な好み、嗜好に左右されてしまいます。
ただし、本書はその左右され具合が面白いというか、小谷野さんなりの理屈付けがなされていて、たしかに奇妙で正直わかりにくい、あるいは面白くない、最近の(どうやら本書を読むと昔からそうだったようなのですが)芥川賞受賞作の傾向や選考過程での選考委員の好みなど隠されがちな、一般には知らされていない秘密などが(本当かどうかはわかりませんが)面白おかしく書かれている一冊です。
小谷野さんも過去二回候補にあがったことがあって、もちろん落選でそのあたりの私怨が本書を書かれた原動力になっているようです。
二度目の候補にあがった第152回下期では小野正嗣氏の「九年前の祈り」が受賞していて
「私が二度目の候補になったのだが、どうやら最初に落とされたという。それで受賞したのが小野のこの優等生的で文学的な作だから不快きわまる。(中略)書評では小野を絶賛していて私のほうはあらずもがなの嫌味まで書いていた。みんな死ね。(中略)小野は受賞作としては売れず、その後出したのも売れていないようだ。ざまあ見ろ」
この部分が一番書きたかったのかなとも、感じます。
人の悪口を聞いたり読んだりするのはなかなか面白いもので、小谷野氏はその点、裏事情というか通じられている様子で、下世話な人間関係、恋愛関係や不倫、浮気などでしくじった方たちを好んで書かれている感じをうけます。
ただ小谷野氏の好き嫌いはわかるとして、その根拠というか、そのあたりがなかなか見えにくくてもしかしたら自分でもよくわかっていないのかな、とそんな印象もありました。
ちなみに最後に偏差値の一覧がのっていて一番高得点なのが村田紗耶香の「コンビニ人間」と高橋揆一郎の「伸予」そして李良枝さんの「由煕(ユヒ)」の七十二点です。
おおむね五十点台から四十点台におさまっていて、三十点台も割合多くて「蛇にピアス」や先ほどでた小野正嗣氏の「九年前の祈り」も三十点台となっています。
最低は楊 逸さんの「時が滲む朝」でぶっちぎりの低評価二十五点です。単なる日中友好の為の受賞としか思えない、と書かれていますがどうなんですかね。
無責任に読むには結構面白い本でしたよ。