ニックネーム:
まーち
投稿日:2016/07/12
変な間取りのアパートの部屋で暮らした、13組の住人たち
この作品、最初からびっくりさせられる。普通、表紙をめくると、タイトルと著者名が書かれたページがあり、多くの場合、目次があり、そして、本編が始まるという感じだと思うが、この作品は、いきなり、第一話が始まるのだ。
この作品が興味深いのは、一つのアパートに住む住人たちを描いた話ではなく、アパートの一室に、50年の間に住んでいた、13組の住人たちを描いているということである。その住人たちの一部が、第一話で紹介されていくのだが、住んだ順に、苗字や名前に、数字が付けられているので、その先の話で、いつ頃のことなのかわかりやすくなっている。
ちなみに、最初の住人は、1966年から70年まで住んでいた、大家の息子、藤岡一平である。その後、二瓶夫妻→三輪密人→四元志郎→五十嵐五郎→六原夫妻→七瀬奈々→八屋リエ→九重久美子と、住人たちが入れ替わっていく。第一話で紹介されるのはここまでなのだが、その後、十畑保→霜月未苗→アリー・ダヴァーズダ(ペルシャ語で、「12」という意味らしい)、そして、2016年まで暮らした、諸木十三という、13組の住人たちが登場する。
さらにこの作品、舞台となる、<第一藤岡荘五号室>が、変な間取りだということが、第一話で語られるのだが、どうも、頭の中でイメージしづらく、「う~ん、間取り図載せて~」と思っていると、第一話の次に、タイトルと著者名が書かれたページが現れ、その裏が、間取り図となっているのだ。なんとも、にくい演出である。(その次に、目次もある)
さて、内容だが、住人たちのさまざまな事柄が、延々と語られていく。それは、シンク周りの痕跡(3センチほど残された、ガスの元栓のゴムホースとか、下の扉の中に残された雑巾と洗剤とか、「水不足!」のステッカーとか)や、畳に残されたくぼみなど、さまざまなのだが、そんな痕跡から、住人たちは、自分の前に住んでいた住人に、思いをはせるのだ。
さらに、雨の日の話や、風邪をひいた話、部屋を訪れた人たちの話、テレビを観ている話などが語られるのだが、同じことに関して語っているのに、年代によって、かなり違いがあるというのが面白い。
この著者の作品は2作目なのだが、やっと、この方の作風がつかめた気がする。とにかく、実在の固有名詞が沢山出てくるというのも、特徴の一つだろう。
たとえば、70年~82年に住んでいた二瓶夫妻には、環太という息子が生まれるのだが、中学生になった彼は、雨音はショパンの調べなんかではないと憤っていた。
そして、彼の母親である、二瓶文子は、「科学忍者隊ガッチャマン」の再放送を観ていた息子に、「おかあさんは、『コンドルのジョー』が好き」と言っている。ちなみに私も、コンドルのジョーが好きだった。
そのほか、テレビ番組も、各時代の、懐かしい番組名が登場する。
この作品、最後の住人である諸木が、この部屋に入居した理由が、ちょっとドキドキする。そこには、三輪密人という住人が関係しているのかも?
隣に住む住人、さらに、向かいの<第二藤岡荘>で暮らす住人たちも登場するのだが、興味深いのは、<第二藤岡荘>に住む家族の娘が、どんどん成長していくことだろうか。
まるで、住人たちの伝言ゲームのような作品で、とても楽しく読むことができたのだが、結局、なぜ、五号室の隣は三号室なのかという理由がわからないままだったのが、気になってしまった。ただ単に、「四」は縁起が悪いという理由なのだろうか。