ニックネーム:
こたろう
投稿日:2012/12/17
直木賞を取られてから印象が薄くなったような森さんの初期の傑作です
タイトルに書いたのはあくまで私の個人的な印象ですが、それだけ初期の作品がどれも印象的だったということでしょう。
本作もそうです。まだ若書きという感じは否めませんがそれだけに生で力強いメッセージに貫かれた物語です。
主人公は女子中学生のさくら。いろんなことに不満で友達と一緒に万引きを繰り返していて見つかりだんまりをつづけた後に智というスーパーの青年に助けられて逃げ出します。智はと優しいけれど不思議な青年で「つきのふね」の設計を続けています。いつか人類を全員載せて旅たつ船を作るのだというのです。
実は彼は父が行方不明になったりつらいことが重なって心にやまいをもっています。さくらも一緒に万引きをくりかえしていた友達、梨利をうらぎったという疾しさを抱えています。その梨利はもっと悪い仲間たちと遊んでいる様子。
もう一人、今ならストーカーと言われかねないさくらと梨利の尾行が趣味の勝田という同級生の男子生徒が出てきます。
さくらが智のアパートに出入りしていることを突き止めて出入りするようになります。また勝田は偽の古文書を作ります。昔通っていた廃校になった小学校の屋上に四人がそろった時につきのふねが降り立つという中身です。
智にはウィーンにチェロの勉強で留学している友達がいてとても重要な役割を果たします。
智はどんどん病が重くなり、梨利も売春の手伝いをしたという嫌疑で警察に取り調べられ、家にこもっているというのです。
何とかしたいと思うさくらと勝田はウィーンに手紙を書いたり、梨利のもとを訪れたりいろいろ動くのですが……
最後は疾走感にあふれた展開で、つい親身になって読み進めてしまいます。
巻末の開設で私の好きな翻訳家の金原瑞人さんが力のこもった激賞の解説を書かれています。その解説にあるように最後の手紙の本当に最後の一行に心を打たれました。
力作です、傑作です!