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『ヘンな論文』発売!サンキュータツオインタビュー

1976年東京生まれ。芸人。オフィス北野所属。
お笑いコンビ「米粒写経」として活躍する一方、一橋大学非常勤講師もつとめる。
早稲田大学第一文学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。文学修士。ラジオのレギュラー出演のほか、週刊誌、月刊誌などでの雑誌連載も多数。
趣味は、アニメ鑑賞、BLを読むこと、ヘンな論文を収集すること、街で見つけたタイルの写真を撮ること、落語、麻雀、NBA観戦。著書に『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』(角川学芸出版)などがある。

「論文」や「研究」と聞くと、なにやら堅苦しくて難しそう……というイメージが強い。
しかし、世の中にある膨大な数の論文の中には、「えっ!? この研究にこんなに時間を費やして、一体なにになるのだろう?」と思わず疑問を感じずにはいられない研究が存在しているのである。
今回、そういった珍論文を紹介した書籍『ヘンな論文』が発売。

『傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離』 『男子生徒の出現で女子高生の外見はどう変わったか』 『走行中のブラジャー着用時の乳房振動とずれの特性』 『湯たんぽの形態成立とその変化に関する考察Ⅰ』など、タイトルからして「どんな研究!?」と首をかしげてしまう論文が十三本も収録されている。

論文から読み取れる研究者たちの熱き思いとは何なのか。 そして、そもそも論文とは一体どういうものなのか。
本書の著者であるサンキュータツオさんにお伺いしました!

身近なテーマの論文を選びました

―――本書には十三本の論文が収録されていますが、どういった経緯で選ばれた論文なのでしょうか?

TBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』のコーナーで紹介していたものが中心になっていますが、基本的には内容がかぶらないものを選びました。
理系・文系の論文、あとは研究領域・手法が異なるもの。
泥臭くやっている研究もあれば、資料主義だったりデータ主義だったりする論文もあります。

「山の登り方にもいろいろある」ということがわかるような論文を選びました。

―――研究対象はすごく身近なものが多いなと思いました。

そうですね、コーヒーカップ(コーヒーカップとスプーンの接触音の音程変化)とか。
あとは女子高の共学化(男子生徒の出現で女子高生の外見はどう変わったか)とか、ネコカフェ(大学祭における「猫カフェ」の効果)とか。
身のまわりで実感できるものとか、こういうところにも研究している人がいるということがわかる論文を選んでいます。

ブラジャー(走行中のブラジャー着用時の乳房振動とずれの特性)とかは、意外と男女の間でもブラジャーについて真剣に語り合うってことないじゃないですか。

―――確かにそうですね(笑)

男性って、女性の生態を考えてないと思うんですよ。
女性はブラジャーをつけて、位置がずれたら直さないといけないし、化粧をしたら化粧直しもしないといけないし。
それにマニキュアとかして、月1回とか美容室へ行っているんですよね。
普通の給料じゃ生きていけないですよ!
女性って大変だなって思いましたね。

―――本書では、学者として実際にずれを確認するため、男性用ブラをつけてみるという過程がありますが、あの……、今もつけたりしますか?

いや無いです、無いです(笑)

ただ、実際にしてみたら、なんか守んなきゃ!っていう感じはありましたね。 見られちゃいけない! みたいな。
「女性って、常にこういう感じと戦ってるんだな~」と思って。
なんか凄いなって思いましたね。
あと「ズレるのはブラひもだけじゃない」みたいなご指摘を女性読者からいただいて、そんなものなのかという発見がありました。

ヘンな論文の見つけ方

―――書籍には未収録でしたが、以前ラジオで紹介されていた「かぐや姫」に出てくる竹取の翁の年齢(実際はいくつだったのか)を研究した論文が面白かったです。

『竹取の翁の年齢について』ですね。 東﨑 雅樹さん。
あれは面白い論文でしたね。
神戸学院大学の卒業論文なんですけど、神戸学院大学の紀要(大学が発行している雑誌)は、僕的には絶対に見逃してはならないもののひとつです。

―――ピンポイントで注目している媒体があるんですか?

ありますよ。
『世間話研究』とか、あと書籍にも書きましたけど、大学の紀要ですね。
地方の女子大の紀要も先生の情熱を感じられるので注目していますね。

書籍に収録した湯たんぽの論文(湯たんぽの形態成立とその変化に関する考察Ⅰ)も特徴的なものです。
どこにも発表できないので、自分の大学の紀要に載せている。
誰も読んでいないんだろうな……と思いながら書いている感じが凄くいいですよね。

―――膨大な数の論文から、どうやって特徴的な論文を見つけるのでしょうか?

図書館に行って端から読むんです。
常に新しい紀要や論文誌が補充されるので、定期的にチェックしに行っています。
1日じゃ終わらないんですけど、鼻がきいてくるんですよ。
「あ~、この雑誌にはありそうだな」っていうのが、なんとなく分かってくるんです。

査読が何人も入る論文誌は、凄くチェック体制が厳密だし、トレンドにあわせた論文じゃないと掲載してもらえないんです。
査読している人がいなかったり、同人誌的にやっている論文誌や紀要だと、面白い論文がありますね。

―――同人誌的な論文誌があるという話ですが、コミケで見られるような、一般の方が自分の趣味を突き詰めて出版している同人誌との違いはありますか?

同人誌だと、ボールペン研究家の雑誌とか、日本全国でエレベータの写真を撮り歩いている人とかもいて、そういう意味では、コミケで売られている同人誌は、考古学ではなく考現学的な調査が多いですね。
学問との境界線をあえて引くとすれば、まずは研究テーマを取り巻く全体像を押さえた上で、「ここです」と自分の研究テーマを歴史的に語っているかどうか、ということですね。
だから、1000年後の人が読んでも納得できるものになっているかというところが境界線になっていると思います。
ただ、コミケの同人誌は本当にレベルが高いので、論文と言っていいものはあると思います。

現在のコレクション数

―――私は映画鑑賞が趣味なので、CiNii(読み方:サイニィ。論文や図書・雑誌などのデータベース)で映画の論文を検索してみたんですけど。

映画はいっぱい出てくるでしょ~!
「小津 安二郎」とか、もう少し具体的に絞り込まないと。

―――いっぱい出てきました! だから「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で調べ直したり(笑)
映画ジャンルだけでも相当数あったので、論文のコレクション数はかなりの量ではないでしょうか?

数えたことはないですけど、幅180cmのステンレス製本棚の一段は、論文で埋まっていますね。
今日、実際に論文を持ってきたんですけど、1本ずつクリアファイルに入れて縦にして収納しているんです。
これがまたすぐ倒れるんですよ! 超強いブックスタンドが欲しいくらい。
数が多くなると重いんですよね。

一生かけて何かひとつのことに向き合うこと

―――私は卒業論文も書いたことがなかったので、論文の書き方やルールを本書で知ることができました。

卒業論文というと、通過儀礼じゃないですけど、車の運転免許を取るくらいの大変さはありますよね。
実際に免許を取ってみると、「車を運転している人って、みんなこの試験を通ったんだ!」っていうリスペクトが出てくるじゃないですか。
それと同じで、「みんな卒業論文を書いたんだ!」と思えるというか。
一度通ってしまえばなんとでもないことかもしれないですけど、書いている当時は胃が痛くなる思いをしてる人が結構いると思います。

―――論文って、「大変そうだな」というイメージしかなかったのですが、高校生のときにこういう本に出会っていれば、学問をやりたいという気持ちになれた気がします。

そう思ってもらえるといいですね。
一生かけて何かひとつのことに向き合うっていうのは、いい作業だと思います。

最近、『漱石研究年表』という書籍を買ったんですけど、夏目漱石が生まれる前から死んだ後のことまで、わかっている範囲の毎日のことが天気まで反映されているんです。
もうストーカーですよ。それ読むだけでもうね、ゾクゾクするんです。
「100年前の人の行動が、こんなにわかっちゃうんだ!」みたいな。

―――研究者の方々の意気込みが感じられますね!

夏目漱石はそれくらい先行研究(自分の研究よりも先んじて発表された研究)が多いということなんです。
日本文学をやっている人の半分は、漱石研究者だとよく言われるんですけど。
夏目漱石の弟子や、芥川龍之介、内田百閒の研究者は、みんなつまるところ漱石の研究者だし。
だから、一生をかけて夏目漱石が11年間に書いた小説すべてと向き合うっていうのは、ひとつの面白い作業だなって思います。

―――夏目漱石が船に乗った本当の時間を突き止めた論文もありましたよね。

あっ、でた!
あの論文は続編を出すときに絶対入れたいと思ってます。
山田 廸生先生の『「坊っちゃん」 と瀬戸内航路』。
夏目漱石が、愛媛の松山まで英語教師として赴任したときに、どういうルートで松山まで行ったのかっていうのを調べた先生です。
しかもそれは、『漱石研究年表』に書かれた定説を覆したっていう。
これは近年で一番興奮しましたね。

―――『傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離』という論文では、カップルがどれだけ他者との距離を保てれば密着できるか、そのパーソナルスペースの範囲が数値化されていますよね。
これは恋愛の始まりや発展を後押しするための環境作りにも参考になったり、個人的にも凄く好きな研究です。

論文を書いた小林茂雄先生は、天才型の研究者というか。
年間一番多いときで5本くらい論文を書いてるんです。これね、普通の人間じゃないですよ。

この研究も、個人のパーソナルスペースに関しては研究が進んだけど、カップルについての研究がまだ無いという点で、「パーソナルスペースについて、どこまで明らかになっているか?」という前提があるじゃないですか。
だから、その歴史の中に自分の研究を位置付けているんですよね。

―――この研究では、カップルを観察していた研究員のうち、ひと組が本当にカップルになったじゃないですか。
わたしは、その研究員の密着度も気になっていて(笑)

はははっ(笑)そうですよね~。
密着まではしていないかもしれないですけど、カップルの振りをして観察をしていたので、距離は近いと思いますよ。

―――『「あくび」はなぜうつる?』という章では、『あくび指南』という落語が紹介されていますよね。
わたしも、この落語を聞くとあくびが出てしまうんです。

聞き上手の人は、あくびをしている人の気持ちに感情移入するから、あくびが出てしまうというね。
咳とかも移るじゃないですか。
誰かが咳ばらいすると、咳をしたくなったりとか。
そういうのと同じだと思うんですよね。

研究者に興味をもってほしい

―――本書では、写真が掲載されている先生もいらっしゃいますが、実際にお会いした先生なのでしょうか?

そうです。
小林先生、塚本先生、伊藤先生は会いに行きましたね。

―――本書を読んでいると、「この研究をした人は、一体どんな人なんだろう」と気になったところで先生の写真が出てくるんですよね。
写真を入れたのは、研究した人が見えるといいなという点からですか?

そうですね。
研究はもちろんですが、それを書いた研究者に興味をもってもらえたらいいなと思って書いた本だったので。

―――これから会いに行く予定の先生はいるのでしょうか?

夏目漱石の研究をした先生にはどうしても会いたいなと思っているんですよね。
連絡をとろうと試みたんですけど、一年の半分以上は船の旅行に出ているということで会えなかったです。

わからないものに切り込んでいくのが学者

―――本書は、論文への愛あるツッコミが面白いですよね。
湯たんぽ研究の論文を紹介した「『湯たんぽ』異聞」という章では、論文にある伊藤紀之先生の「湯たんぽの謎は、深まるばかりである」という一文に対する「謎が深まっちゃったよ!」というツッコミが、何回読んでも笑っちゃうんです。

この伊藤先生の論文は、研究の醍醐味を凄く象徴していますよね。
ひとつのことを掘り下げていくと、わかることがある反面、もっとわからないことが出てくるっていう。
わからないことが見つかって、なんかこう……、嬉しかったんだろうなぁっていう。

(一同笑)

わ~、いいの見つけた~! という感じが詰まっている一文ですよね。
誰も読んでいないと思って、「深まるばかりである」と思わず論文に書いちゃったっていう感じが、凄くいいですよね。

『竹取の翁の年齢』とかもそうですけど、よく分からないことに対してアプローチしていくっていうことは面白いことなんだっていうのは知ってもらいたいなと思いますね。
これは生涯かけて訴え続けることかなと思っています。
多くの人は、よくわからないものを「気持ち悪い」とか「つまらない」で思考停止してしまっていると思うんです。
でも、そこに切り込んでいくのが学者なんだよっていうことをわかってもらえると嬉しいですね。

―――伊藤先生も、ラジオでこの論文について説明されていたときに「(湯たんぽ研究に費やした教員生活)最後の10年間は大変充実してました」って言われてましたよね。

そうだよね~、言ってましたね~(笑)
「最後の10年間は充実してました」。
すごい話ですよね。

―――ちなみに、本書にある挿絵なんですが、こちらは伊藤先生ですか?

伊藤先生ですね。

(一同笑)

―――湯たんぽ大好き! という感じが凄く出てるな~と思いました(笑)



まだまだ他にもいろいろなお話をお伺いしましたが、今回はここまで。
論文や研究、また研究者の特性についてなど、たくさんのことを教えていただきました。
10代の頃にこういう本に出会っていたら、問いに学ぶ「学問」というものと楽しく向き合えたのではないかなと思いますが、タツオさん曰く「今からでも」ということなので、身の周りで気になる事象を探してみたくなりました。

本書は、学生の人も、学生じゃない人も楽しめる内容になっています。
また、周りに学生がいる方も、ぜひ本書を学生さんにお勧めしてみてください。
将来、「ヘンな論文」を生み出すタマゴかもしれませんよ……!

著書紹介

ヘンな論文
サンキュータツオ (著)
KADOKAWA
おっぱいの揺れ、不倫男の頭の中、古今東西の湯たんぽ、猫カフェの効果…なかなか見る機会のない研究論文。
さがしてみれば仰天のタイトルがざくざく…。
こんなことに人生の貴重な時間を割いている人がいるなんて!

目次
「世間話」の研究
公園の斜面に座る「カップルの観察」
「浮気男」の頭の中
「あくび」はなぜうつる?
「コーヒーカップ」の音の科学
女子高生と「男子の目」
「猫の癒し」効果
「なぞかけ」の法則
「元近鉄ファン」の生態を探れ
現役「床山」アンケート
「しりとり」はどこまで続く?
「おっぱいの揺れ」とブラのずれ
「湯たんぽ」異聞